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決して忘れないこと

1 月 12th, 2019

今夜はどんど焼き。

ペンション内にはもう子供があまりいないので、別荘地の住民と一緒にやっている。

息子一家は出掛けて行ったが、当然私は行かない。

先日、松本の友人たちとの間で夫婦別姓に関する話題が出た。

面白いことに、この時代、男性たちも選択的夫婦別姓に賛成だった。

帰りの電車の中で、私は遠い過去の出来事を思い出していた。

まだ23歳か24歳のころ、私は社員十数名の小さな出版社に勤めていた。

昼休みになると、当時の社会党本部があった裏の、旨いけど小さくて汚いラーメン屋で、ニラレバ炒めや餃子を食べるのが常だった。

女なんていつも私ひとりなので、ラーメン屋のおじさんは「ネエちゃんよく独りでこんなところに来るねえ、喫茶店でサンドイッチの方がお似合いだよ」なんて言いながらも結構嬉しそうだった。

ちょうどニラレバ炒めが出来上がって食べはじめた時、運悪く社長がカウンターの私の隣に座った。

そこで彼が話しはじめたことは、男女には性差があるから男女同権ではない、もちろん女性の権利は認めるけれど、というものだった。

昔の男はみんなこんなもの。まだいい方だった。

私に同意を求めるので、「男女分権ってことですかあ?」と不承不承答えると「キミはいいことを言うねえ、そうだよ分権だよ分権」と彼は上機嫌であった。

大好物のニラレバ炒めが冷めて不味くなるのがイヤだった私は、いい加減なところで妥協してしまった。

真の意味で卑しい私だった。

女の権利って、生理休暇のことかあ?

力仕事から免れる権利かあ?

男子厨房に入らず、なんていいながら料理や育児を女の権利というかあ?

それとも男を家事無能力者に仕上げて逆支配する権利かあ?

おかしい!男女分権なんて欺瞞だ!

絶対同権に決まっている!

という考えが、次から次へと湧いてきて箸がススマナイ。

いつだって後からしか大事なことを思いつかない愚かな私。

食欲が全くなくなり大好きなニラレバ炒めを残した。

ラーメン屋のおやじさんが「どうしたの?ネエチャン具合でも悪いの?」と心配そうに私の顔をのぞき込んだ。

その夜私は布団の中で泣いた。

投獄までされ、血のにじむ思いで行動しながら、やっとの思いで諸々の権利を勝ち取ってきてくれた先輩諸姉に対して、私は自分が恥ずかしく情けなかったからだ。

八木あき、福田英子、平塚らいてう、山川菊栄、その他多くの女性の多大な犠牲と尊い努力を、私は“ニラレバ炒め”のために踏みにじってしまったのだ。

翌朝、私は社長に話があると言って、社会党本部の正面で昼休みに会うことにした。

そこで私は一気に男女は死ぬまで「同権」であることをまくしたて、分権などという欺瞞的言辞を弄した自分を激しく後悔していると言った。

社長はあっけにとられた顔をしていたが、それでも、まあまあ、と笑ってその場を離れた。

あとは野となれ山となれ、スッキリした私は当然ニラレバ炒めと餃子を注文し「おじさん、大盛りにしてね!」と頼んだ。

その後、社長とは長い付き合いになり、83歳で亡くなる前年までここに来てくれた。

ボクをどんど焼きに連れて行ってくれなかったから“ふて寝”だよ。

カアちゃんは階級闘争よりジェンダー闘争の方が先だと思っていたみたい。

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